「男らしさ」のタブーに切り込む!『男がつらいよ』レビュー

「男性学」って聞いたことありますか

「男性学」の専門とする、武蔵大学社会学部助教・田中俊之先生の本です。

男性学ってなによ?」という方も多いかと思いますが、この本によると男性学は「女性学」の影響を受けてできたもので、女性が抱える特有の悩みや問題を研究する女性学があるのであれば、男性特有の悩みもあるだろう、ということで成立していったそうです。

男性特有の問題でやはり大きいのは、仕事でしょうね。仕事を辞められないプレッシャー、失業に強い関連のある、男性の自殺率の異常な高さ。オタク差別結婚難なども男性の問題として挙げられています。

本の目次は以下。


  • 第1章 男性はなぜ問題を抱えてしまうのか
  • 第2章 仕事がつらい
  • 第3章 結婚がつらい
  • 第4章 価値観の違いがつらい
  • 第5章 これからの時代をどう生きるか


忙しくて時間がない人は第1章、第2章だけでも読むことをお勧めします。


「そもそもなぜ男性問題はオモテに出てこないのか?なぜ話題にならないのか?

なぜ男はそこまで仕事に縛られているのか?

これは男女共に、「”男性”性」というものを理解する上で抑えておくべきところだと思います。
男女共、なのです。男性問題の特徴として、男性自身が「問題だと思っていない」というところがあります。



男性は「今の自分の生き方は、もしかしたら苦しいのでは?あまり幸せじゃないのでは?」

と疑うところから始めなければいけません。かつて女性問題がそう始まったように。




男性問題は、男性の特徴自体がそれを隠してる


最近では、女らしさを「女子力」という言葉で表し、

「女子力高いね」

とか言いますけど、男性はそういうのないですよね。
男らしい男に対して「男子力高いね」とは言いませんよね。

そもそも「男らしさ」を語ること自体がこっぱずかしい、男らしくない、そういうものは口に出すものじゃない、という認識がありませんか?

これは長年タブーにされてきたことだと思います。こういう「語らない男の美学」というのは魅力的な側面もあるのでしょうが、時代によっては、それは大きなデメリットになってしまうこともあります。

本書では臨床心理士のテレンス・リアルの言葉を引用しています。

「男のうつ病の皮肉なところは、うつ病をもたらす原因と同じ要素が、病気を直視させないようにしている」

ざっくり説明すると、男は、「男は強くなければいけない」と思うことがプレッシャーになっているにも関わらず、そう強く思うからこそ自分の周りに(そして自分自身にも)そのストレスを隠すため、誰もその病状に気付けない、ということです。

ちょっとわかりにくいですかね?でもここ、重要なポイントです。
男らしさについて語らない、男らしさのプレッシャーがつらいということを語らないことが「男らしさ」、というところが、この男性問題の非常に特徴的で、そして複雑で厄介なところです。

「ほんと、そんな社会が定義した「男らしさ」にこだわるなよ」と思う方も多いでしょう、でもとはいいつつも、皆無意識のうちにすごくこだわってしまっているものなのです。それが「らしさ」の怖いところでもあり。

それを残酷に表しているのが、男性の自殺率の統計データ。

これは2章「仕事がつらい」で詳しく語られていますが、そのまま転記するわけにもいかないのでネットの別の統計データのリンクを貼ります。

日本人男性は失業すると死んでしまう……?

性別の違いで、ここまで差が開きます。これほどまでに、男にとって仕事というのは大きな存在なのです。そしてこれは大きくなり過ぎている。仕事に誇りを持つことは大事ですが、仕事に自分の人生のすべてを捧げるのは社会人として間違っています

「え?社会人ってそういうものだろ?」

と思った方は、もう社畜のシッポが生えかかってるので気をつけてください。



社会人って、なに?

この本では、人の社会生活の営み「職業」「地域」「家庭」「個人」の4つに分け、その全てが”社会”であり、それぞれの重要性を語った上で、”社会人”について次のように述べています。

”もちろん、仕事、コミュニティー、家庭、個人の全ての領域に全力で向き合っていたら体がいくつあってもたりません。
それでも、どの社会領域にも目配りをすることは可能なはずです。
どの領域にどれだけ時間を割くかは個々人の置かれた立場に合わせる必要があるにしても、
社会全ての領域に関心を持ち続ける人を「社会人」と呼ぶべきなのです”

つまり、社畜は社会人じゃないんですよ。「職業」以外の社会的要素をガン無視して生きてるわけですから。社畜当人は必死で社会人としての責務を全うしようとしてるってところが皮肉なものです。

「男らしさとか気にしてないし。社会人としてやるべき仕事をひたすらやってるだけだし」

と言いながら、それが逆に無意識のうちにその男らしさの虚像に翻弄されてる行動、逆に”社会人”として未熟な行動になっていないか?

と男性は自分に今一度問いかける必要があります。



ほんの一部の紹介でしたが、それでもこんなに長くなってしまいました… 
本当はもっと語りたいところなのですが、ブログ記事的にアウトな感じになってくるのでここらでやめます。

これらの内容を読んで興味を持った方は、ぜひ本書を手に取ることをお勧めします。
僕は今回マジメなノリでレビューをやっちゃいましたが、本自体はそれと裏腹に読みやすいんですよ実はこれが。

著者の田中先生、ちょいちょいネットスラングやら漫画ネタやら渾身のギャグやら痛い体験談やらをぶっこんできます。不意打ち的に。普通に笑ってしまいました。ご本人も本書でユーモアの重要性について述べておられましたが、確かに実践しております。素晴らしいバランス感覚。


「(ええー、でも『男がつらいよ』ってタイトルの本を買うのはちょっと恥ずかしいな…)」

と感じた方、特に貴方はこの本を読むべきです。





男性学のことについてもっと知りたい方は同じ田中先生のこちらの著書もこちらもどうぞ。
こっちはもうちょっと堅い感じですが、ジェンダー関連の研究をしてる学生の方なんかは、読んでおいて損はないと思います。