昔話

大学1年



久しぶりに昔話でもしようかな。





オレがまだ大学1年生だった頃。



あるサークルの新歓コンパ。オレは「大学デビューするぞー!」意気込んでいた系のバカ学生で、いろんな新歓コンパに顔を出しては、ケータイのメモリを増やし続けていた。



オレは当時、オタクのくせにモテキャラになれると勘違いして、女の子ばっかりと話していた(こういう人、新歓コンパに一人や二人はいたと思う)。ああ、本当に恥ずかしい、、、まあそれはいいんだが、そんな中、珍しく男とものすごく話し込んだ時があった。



彼の名はタケル(仮名)。そいつはオレの好きなあるバンドの大ファンで、お互いその共通点があると知るや否や、一気に意気投合した。



新歓コンパで知り合ったほとんどの人とはその後連絡はなかったが、タケルとは大学の食堂で一緒に昼食を食べるなど、交友が続いた。



タケルは本当にイイ奴だった。明るくて、積極的で、人の話をよく聞く人間だった。すごく主張がはっきりしていて、信念を持った話し方をするのも好感が持てた。



夏休みも過ぎた頃、オレはタケルと一緒にそのバンドのライブにいったりもした。有名なバンドでなかなかチケットが取れず、徹夜してチケットショップの前に並んだこともあった。当時はやることなすこと全てが面白かったから、徹夜なんてのも全然苦じゃなかった。オレは大学で友達ができたことをとても嬉しく思っていた。



ライブも何度も行き、キャンパスでも休み時間を一緒に過ごし、授業が終わった後は飲みにいったりもしていた。

ある時、オレがケガで数日間入院したことがあったのだが、タケルは律儀にもお見舞いに来てくれた(いつもつるんでた他の友達は全然こなかったのに、、、)。タケルは、「暇でしょ?」と、差し入れまでくれた。雑誌数冊、そして見たことがないタイトルの新聞。『世紀王新聞』?まあとにかく嬉しかった。



そんなある日、タケルから誘いがあった。



「今度、日韓交流イベントの展示会があるから一緒に行かない?」



オレはこいつ韓国好きなんだなーと思いつつ、軽い気持ちでOKをした。



展示会の会場に着くと、思っていたより小さい建物だった。どうやら2階まで使用して展示してあるということで、とりあえず1階から順番に見てみることにした。



展示してあるのは、日本と韓国の学生がどれだけ交流したか、という実績が写真とグラフつきで説明されていた。



まあ、日韓交流は良いことだ、、、しかし、正直なところ、、、面白くない、、、



タケルはこれを見て楽しいのか?そんなに韓国が好きなのか?だったら次からせめて韓国料理の展示会に連れて行ってくれ、、、



建物に入って10分、既に猛烈にテンションが下がっていたオレに、タケルは意気揚々と話しかける。



「2階にいこうよ!」



まあ、2階もどうせこんなノリなんだろうな、、、と期待せずにあがっていくと、、、そこはオレの予想を大きく裏切る別世界だった。





はじめ、その展示内容を見た時、ちょっと理解するまでに時間がかかった。



鮮やかな4色の旗

髭の長い老人の大きな肖像画

ところどころに飾られている仏教チックなオブジェ



これは、、、あの宗教、、、総苦科学会じゃないか、、、!?



さすがにいくらバカなオレでも気づいた。タケルがオレを誘った理由。でも、この期に及んでも、オレはまだ信じられなかった。というか、信じたくなかった。



まさか、、、嘘だろ、、、!?





一通り見終わった後、オレとタケルは飲みにいった。帰ることも考えたのだが、どうしてもタケルに確認しておきたかったのだ。オレがどう質問を切り出そうか考えている時、タケルの方から切り出してきた。



「あのな、俺、総苦科学会の学会員なんだよ」



やっぱりか、、、オレは本当の目的を隠されながら誘われたことに少し腹が立っていたが(展示会も面白くなかったし)、とりあえず笑って場を流そうとした。



「なんだよー、そうならそうといってくれれば良かったのに!全然いいのにもー」



「いや、そういうのいきなりなんかアレかなと思って、、、」



「全然気にしないって!むしろどんな感じなの?結構興味あるんだけど」





変に緊張して、テンション高めでしゃべってたら調子に乗った。これがまずかった。

オレは確かに興味はあった。あくまでも知識として、という意味で。だが、もちろんのこと、タケルはそうは受け取ってはくれなかった。



「マジで!?そうか、じゃあまず簡単に説明するとね、総苦科学会ってのは、みんなで苦しみを科学的に分析して、みんなで幸せになろうってのを基本的な信条としていて、、、」



「、、、だから、毎日教祖様の像に向かってお経を読むんだよ。そうすることによってプラスのエネルギーが増幅されて、、、」



「、、、芸能人でもたくさんいるんだよ。知ってた?俺らの好きなバンドのギタリストもそうなんだよ。バラエティ番組でも佐元魔美だってそう、マンゴー須々木だってそう、、、」



「、、、ホントすごいんだって。日本には1000万人以上いるんだよ。大体の大学、企業にだっているし、政治的にもものすごく貢献して社会を支えてるんだ」





止まらない。興味を持ってるといったことを後悔した。話を聞いていると大げさだったり、明らかに矛盾しているような部分もあったが、つっこめなかった。完全に気合負けしていたし、オレは目の前にいる友人が突然別の人に思えてきて、なんだか怖かったというのもあった。



オレは誤解なきよう弁解しておくが、宗教が嫌いなわけじゃない。うちの先祖代々の墓は仏教、幼稚園はキリスト教系だったし、大学ではイスラム教の勉強をしたし、結婚式は神道だった(節操無いな、、、まあしかしこれもオレの宗教観なので)。基本は、宗教は人を幸せにするものだと思っている。ただ、好きなもの、信じるものがあるのは素晴らしいことだが、それを人に押し付けるのは間違っている、とも思っている。



タケルの猛烈な勢いの勧誘にさすがにうんざりして、話をさえぎった。



「タケル、わかったけど、オレは今のところ入信とかは考えてないんだ。だけど、お前はめっちゃイイ奴だし、そういうの抜きでこれからも普通にやってこうぜ」



すると、タケルは真面目な顔でこういった。





「俺は、総苦科学会抜きにそういうの考えられないから」





ちょっとショックだった。え、じゃあなに?オレが総苦科学会に入らないことがわかったら、友達もやめるってこと?今までオレと仲良くしてたのは、全て勧誘の為ってことか?オレが明らかに動揺している態度をとっても、タケルは表情を変えない。

オレは、ああ、タケルは本気なんだな、と悟った。



それ以来、オレとタケルはほとんど会うことはなくなった。キャンパスですれ違ったら、挨拶する程度。たまに話しかけてきても、



「入るとかそういうのはまだいいから、とりあえずイベントに参加したりしない?」



興味のないオレは笑って断る。嫌だっていってるのにしつこい、この悪びれのない態度がオレを不愉快にさせたし、また悲しくもさせた。



宗教の壁というものを、思い切り肌で感じた経験だった。







今?連絡は、ないことはない。



選挙の時になると、必ず電話がくる。



もちろん、「共鳴党に一票を!」、と。

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