駄菓子屋

自律神経失調症の治療法をネットで調べていたら、

「球技が効果的です。丸くてどこに弾むか予想できないものは、集中力を必要として、良いです。」

みたいな事が書かれていた。
真偽は確かではないが、とりあえず良いということはやってみる。とはいえ、オレは球技が全般的に苦手であり、しかも体調的にもそんなに激しい運動はできない、、、説明によると、けん玉やお手玉でも良いらしい。そこで考えたのが、ジャグリングである。あの大道芸人が玉をポンポン投げる、あれである。早速ボールを買いに行くことにした。 

"ボールって、どこに売ってるんだ?スポーツショップで高いの買うのもバカらしいし、、、ゴムボールでいいな。となると、おもちゃ屋、、、そうだ、久しぶりに昔よくいってた駄菓子屋にいこう。" 


オレがよく通っていた駄菓子屋は、怖いババアがいた。普通こういうところのおばあちゃんはもっと優しかったりするものだと思うが、ここは違った。店内は薄暗く狭く、そして静かだった。皆、怖くて口数が少なくなるのである。オレと友達はいつも入るとき緊張していた。 
ババアはよく、客を怒っていた。とてもかったるそうな声で、

「ハイ、買う気がないなら出てってね。狭いんだから。」

なんて普通に言っていた。だから新しいお菓子が出た時なんかもオレは怖くて値段が聞けなかった。全然知らないヤツがそのお菓子を買っているのをみて、

「すげー、あいつ買ってるよー」

なんて羨ましく思ったのを今でも覚えている。

何気にすごいことをいってたなあのババア。今、サービス業のオレは働いていた頃「顧客満足」なんていっていつも客にへつらっていたわけなんだが、このババアはそういう思考の180度逆を突っ切っている。

客に「出てって」なんて今考えるとあり得ないが、そういうのがダメか?といわれるとそうでもないような気もする。そんな怖いババアに会いに、またいってしまうのである。あの汚い駄菓子屋には、なんともいえない不思議な魅力があった。あのババア、まだ生きてんのかな、、、昔を回想しながら、懐かしい道を歩く。

あとちょっとだ、あ、そうそう、あの角の本屋の隣、、、







駄菓子屋だった場所は、どこぞの建設会社のシートで覆われていた。そのシートの隙間から見えた建物の中は、もはや以前の駄菓子屋の面影はなく、ただ木材や工具などが無造作に散乱していた。

シートに張ってあった看板を読むと、ここはどうやら工務店だかの事務所になるらしい。オレはババアの名前を知らないので、この「建築依頼者」の欄に書いてある名前がババアのものかどうかはわからなかった。

しかし、どうでもよかった。どちらにせよ、駄菓子屋のババアはもういないのである。




しばらくその工事中の建物を眺めていて、ふとあることに気づいた。


"そうか、これで、この街から駄菓子屋はなくなったんだ" 


オレは再びゴムボールを求め、大きなスーパーマーケットのおもちゃコーナーに向かった。