3日目 ~感謝、釣り3兄弟~

~徳島・板野町~



札所:12ヶ所

4番 大日寺

6番 安楽寺

7番 十楽寺

8番 熊谷寺

9番 法輪寺

10番 切幡寺

11番 藤井寺

17番 井戸寺

16番 観音寺

15番 国分寺

14番 常楽寺

13番 大日寺





昨夜の事

あー朝だ。寺の朝はすがすがしいのう。昨夜は大変だったが。



えーぶっちゃけます、



夜、怖かったです。



寝ようとしたら隣のお堂からお経が聞こえてきた。目を開けてもほとんど「黒」しか見えない真っ暗なところでお経聞きながら寝るのは至難の業。

しかもやっと寝ついたのに、夜11時頃に変な音で目が覚める。



「ヒュルルルルルルル」



とかいうSF映画に出てくるUFOが飛ぶような音。

なんなんだよあれはよう。

そしてその後、線香小屋のすぐ隣にある水場に、誰かが近づいてくる。ほとんど闇なので、人影しかみえない。

「プハー、プハー」と水を飲んでいる音が聞こえてくる。飲み終わったら、またどこかにいってしまった。こんな真夜中、一体どこの誰がわざわざ寺に来て水を飲むんだ!

オレは寝袋に入って凍ったイモムシのようになって、いろんな想像を膨らませてた。

お大師さま、これも修行ですか?



以上、昨夜のことでした。オレは耳栓を買うことを固く決意した。



朝6時半近くになると、寺の境内に近所の子供らが集まってきた。ラジオ体操だ。オレは付き添いのお母さんの一人に声をかけ、一緒にやらせてもらう。子供達は明らかにオレを変な目でみていたが、気にしない。これも地域の人との大事な交流なのである。



この遍路をはじめてから気をつけていることとして、「なるべく多くの人と話す」というのがある。お遍路さんはもちろん、道ですれ違う町の人にもほとんど全員に挨拶をするよう心がけた。観光地をまわる予定はないので、結局それが旅の一番の目的になるだろうという考えである。そして、この日はいろんな人と出会うことができた。






四国ではお遍路さんは大事にされている。







ベテランおじさん

8番では"ベテラン"っぽい口調で話すおじさんに会った。このおじさん、とにかく自信満々なのだ。

「チャリの遍路か。チャリなら、17日だな」←いいきってる

「オレはな、もう54年も生きていて、人生のすいもあまいも辛いも苦いも知ってるのよ」←ならオレが昨日会った80のばあちゃんはだろう

そしてオレと話している時に、子連れの若奥さん遍路がやってくる。オレとの会話は即中断、若奥さんの方に色々話しかけている。

「奥さん、これいいよ。お加持水といってな、ご利益がある水だ。持ってきな」

、、、おい、オレにはくれないのかよ。しかもその水、さっきそこの水道で汲んでたやつじゃねーか。

おじさんは奥さんとの話に夢中で、もうオレに話しかけることはなかった。オレは一礼して、去る。





走っている時はヒマなので、道を撮る







絵描き大学生遍路

10番の寺は、クセモノだった。「ここから三百三十三段」という看板が示す通り、物凄い傾斜の階段を登らなければならなかった。上に着く頃にはもう息たえだえである。

お参りを済ませ、ベンチで一休みしていると、若い男が大師堂の前に座り、絵を書いているのに気づく。このしゃれたメガネをかけた背の高いにーちゃん、聞けば東京のW大生だというではないか。自分も東京の大学ということを伝え、意気投合する。ノリのいい奴で、

「乾杯しましょうよ」

といわれるがままにジュースで乾杯。この絵は大学の課題で、彼は遍路をまわりながら、色々な建築物の絵を描いているのだそうだ。遍路グッズは金剛杖一本のみの歩き遍路なのだが、なにせ時間がかかるので車のお接待などを受けてまわっているらしい。こんなお遍路さんもいるんだなあ。





遍路だと同じ大学生というだけで親近感。







田んぼ道

10番から11番までの道のりは、とても気持ちがいい。なんというか、いかにも「遍路道」という感じなのだ。広がる田んぼのなか、あぜ道をチャリで走るのは、気分爽快である。





広がる田んぼ。広がる空。





しかしまた、それは同時に道しるべが少なく、道順がわかりにくいということにもつながる。道の脇についている、赤の丸い「お遍路道順マーク」を見るたびに安心する。しかし、しばらくしてやはり迷ってしまった。

町の中に入り、同じ道を3往復したあと、自分の力ではどうにもならないことを知り、警察の駐在所に入る。だれもいない。

「ごめんくださーい」

そして出てきたのは小さい女の子だった。

東京にはいわゆる駐在所というものが少ない(オレは見たことがない)。ほとんどは派出所であり、行けば必ずおまわりさんがいるのが普通なのだ。警察にいって、小さい女の子が出てきたのは面食らった。

「あー、だれか大人の人いるかな?」

そしてしばらくして、その子のお母さんらしき人が出てきた。11番に行きたいことを伝えると、わざわざ地図をくれて説明してくれた。どうやら、ここらで迷う遍路さんは多いらしい。オレはお礼をいって、4回目の道をたどった。





旅の相棒、“修一丸2号”。







11番のおばちゃん

四国お遍路は寺に番号がついていて、番号が小さい順から回るのが「順打ち(じゅんうち)」そして大きい順、すなわち88、87、86、、、というように回るのが「逆打ち(ぎゃくうち)」という。

この11番の寺で出会ったおばちゃんには、「ちょっとだけ逆打ちすると楽だよルート」を教えてもらう。はじめは



「いかに辛かろうと、オレは順番にこだわる野郎なのさ」



などと心の中でイキがり、このおばちゃんの話を聞き流していたが、よくよく聞くと、ここの順打ちはかなり大変らしい。このおばちゃんの話に感化され、ものの数十分でオレのこだわりは消える。っていうか、大変じゃあしょうがないし。



そう、この次の12番は、数日前あのフェリーの船員が「大変だよ」といっていたところである。オレは11番をお参りした後、17番へ向かう。





親切にしてくれた11番のおばちゃん。





17番から逆に16、15、14、、、といって13でこの日は終わり。日も暮れてきて、そろそろ気にしなければならないのがメシ、風呂、そしてテント場所である。13番の寺には「宿坊(しゅくぼう)」があった。宿坊とは、お寺さんがやっている宿のことである。オレは寺の人に聞いてみたところ、飯はでるし、風呂もあるし、なかなか立派なようだ。しかしその後、有料、しかも値段は民宿くらいかかるといわれ、やる気をなくす。目の前に風呂があるのに、、、!オレはダメもとで宿坊に入り、

「あのー、風呂だけ入らせてもらえんでしょうか?」

と聞く。すると宿坊のおばちゃん、ちょっとためらっていたが

「お客さん来るからあまりのんびり入れんけど、いいよ」

といってくれた。感謝!のんびりするな、といわれつつも、久しぶりのあったかい湯でゆっくりした。





釣り3兄弟

さて、次はテント場所である。オレは国道沿いの町の人に片っ端から声をかけ、ここの近くにテントをはれるような広い場所がないか聞く。地図を持っていて少しは予想できるが、やはりその町に住んでいる人の情報が一番だろう。家の前で立ち話をしてたおばちゃん、学校帰りの中学生、スーパーの店員などだれの話を聞いても

「河原がいい」

という。この時、できれば河原はパスしたかった。石ころで下がゴツゴツしているし、また台風が近づいてたから川の氾濫が心配だったからだ。

河原しかないか、、、と思い始めた頃、あるおっちゃんが「公園がある」という。

「『みずぎわ公園』っていってね、すぐそこの橋を渡ったところにあるよ

オレはおっちゃんに礼をいい、意気揚揚として橋の方に向かう。渡り終え、しばらくあたりを見渡すが、無い。もうあたりは暗くなり始めていたので、なりふりかまわず道行く人に聞く。釣りざおを持った3人の子供が歩いていた。ちょうどいい、子供なら公園は知っているだろう。

「こんにちわー、あのさ、ここらへんに『みずぎわ公園』があるってきいたんだけど、、、」

「え、、、ないですよ」



えっ。



はじめは「つかえねーガキだ」、とか思ってしまったが、話を聞いていると本当にないみたいだ。他の子は「あれは徳島市内だよな」とか全然ちがうことをいっている。

、、、あのおっちゃん、、、



仕方がないからとりあえずテントをはれるような場所を聞く。やはり河原しかないようだ。よくキャンプをする人たちが使う場所があるというので、そこまで案内してもらう。歩きながらいろいろ話を聞くと、この3人の男の子達は皆兄弟で、近所の川によく釣りにいくそうだ。一番長男は小学5、6年生くらい、やはりしっかりしゃべる。途中、子供らが「ここがうち」といってある家を指す。そのテント場所というのは、この子たちの家のすぐ隣だった。



オレは礼をいい、テントを張る。いろいろ準備した後、いよいよ飯の時間である。今日の夕飯はメロンパン一個。近くにコンビニなどはもちろんない。これでしのぐしかない。

水がないことに気づき、さっきの3兄弟の家をたずね、水をもらいにいく。

「あのー、水道水でかまわないんで、お水をいただけませんか?」

すると子供らのお父さんが出てきた。

「なに?水?ちょっと待ってろ」

ちょっと愛想悪い感じだったが、オレは持っていた空のペットボトルを渡し、礼をいう。しばらくして、そのお父さんは、水で満たされたペットボトルと、500mlのビール一缶を渡してくれた。

「ほら、お接待だ」



おおお、ありがとうううう!!!



オレは何度も礼をいって、テントに戻る。



テントの中で"遍路2日目終了!乾杯!"と心の中で叫びながらビールを飲む。うめえ。涙がでそうになった。至福に浸っていると、さっきの3兄弟の次男がテントにやってきた。

「これ、持ってけって」

といって、なしを2個くれた。嗚呼、もう、まじうれしい。本当に。

オレは次男をちょっと待たせながら、お札を書いた。遍路の礼儀のひとつで、寺に納めるお札は、他にもお接待を受けた人に渡すために使われるらしい。オレはお札の裏に感謝のメッセージを書いて、次男に渡した。

「お父さん、お母さんによろしくねえええぇぇぇ!」

そういって見送った。





今日は風呂も入ったし、良いお接待も受けることができたし、いい寝床も見つかったし、いい一日だった。これからもこんな日が続くといいな、となんて思いながら、寝る。





この広場で野宿した。