20日目 ~結願~

スタート位置:香川・庵治市

札所:4ヶ所

85番 八栗寺

86番 志度寺

87番 長尾寺

88番 大窪寺





最後の日

遍路最後の日である。オレはこの日、結構ブルーだった気がする。この旅が終わってしまう、嬉しくもあり寂しくもある。これは遍路にしかわからない気持ちだろう。旅が始まった当初は、辛くてもう途中で「帰っちゃおうかな」なんて思ったこともあったが、今では一日でも長く四国にいたい、と心から思う。不思議なものである。



朝、ナカダイラさんは朝食を作ってくれた。残さずいただき、お礼をいう。おにぎり3コのお弁当まで持たせてくれた。オレはいつものように、お札の裏にメッセージを書いたものを別れ際に渡す。





だんご屋

オレは上、そしてタツミさんは下へ向かった。これでタツミさんとは最後となった。

この山にもロープウェイはあるのだが、もう最後だし、歩いて登ることにする。まあ他の山と比べたらそんなに高い山ではないし。

道の途中にあっただんご屋のおばちゃんが声をかけてくれた。



「今から上にいくのかい?帰ってきたら寄ってって、お茶出すよ」



嬉しい言葉だ。朝からすごく気分がよくなった。



坂を、ひたすら登る。道中誰かに聞いたが、「歩くペースは人がモノを考えるのに一番適している」らしい。チャリに乗っているときよりも、こうやって山を登っているときのほうがいろいろモノを深く考えているような気がする。チャリで走っているときは隣を走る車を気にしたり、頻繁に道順を気にしたりと、考えにふけることは少ない。やはり一番楽しい、というかあるべき遍路の姿は歩きなんだな。



寺にたどり着き、一通りお参りをする。大師堂では、夫婦だろう男女2人の中年が、鈴を振りながら般若心経をあげていた。まあ悪くはないんだろうが、オレはこう大きな音でやられるとお経に集中できないのであまり好きじゃない。この「お経のあげ方」というのもひとそれぞれで、オレはマツシマさんがいっていたあげ方がしっくりきたので以来それを心がけていた。彼いわく



「抑揚をつけたりすると、かっこよく聞こえるがそれは本当はよくないらしいよ。淡々と、正確にあげるのがいいんだ。それとあまりリズムを気にして、息つぎの時に文字を飛ばしてはいけない。いくら暗記していても、ちゃんと本をみながらあげるのがいいんだよ。」



ちなみにここにいた中年カップルのお経は、これらのやり方とことごとくちがっていた。ま、「人それぞれ」なんだろうが。



さっきのだんご屋のところに戻ってくる。おばちゃんはいった通り、お茶とだんご2つをごちそうしてくれた。しばらくおばちゃんと話す。まあこういう時は話すといっても大体話を聞いているだけなのだが。札を渡して、礼をいうと、小さなわらじの形をしたアクセサリをくれた。



「これ、うちの死んだばあちゃんが101才の時に作ったもんだよ。これは緑だから、交通安全のお守りだ」



といって、それをオレのバッグにくくりつけてくれた。



「気をつけていきなよ」



オレはなぜか嬉しくて、涙ぐんでしまった。



このおばちゃんにしてもそうだが、なんでみんなこんなに親切にしてくれるんだろう。あまりにありがたくて、オレもなにかお返しがしたいのに、なにもできない。礼をいって、札を渡すくらいである。

オレにできることはなんだろうか。

この時くらいから真剣にそんなことを考えるようになった。





平賀源内の墓

86番志度寺の入り口には、平賀源内の墓がある。ここは以前から知っていて、志度寺に来たらよろうと思っていた。近くに遺品館もあり、そこに向かう。



入館料300円、、、しょぼい!よほどの源内ファンなら喜ぶのかもしれないが、広い部屋が一つあって、終わり。300円は高い、タダでいいわ、あんなもん。その方がよっぽど楽しめるわ。もし平賀源内が生きていたら、こんな源内館は作らないだろう。

まあ源内に興味は持てたけどね。こういういろんな方向に才能を発揮する人、好きだね。





源内の像。ちょっと汚いのが気になった。







最後の寺、88番札所 大窪寺

87番は町の中、すぐに着く。そして88番、最後の寺である。さすが最後の寺だけあって、なかなか道は険しい。といってもオレは国道を通っているから全然楽な方なのだが。本来の遍路道は女体山(あやしい名だ)という山を越えなくてはならない。

道中、「遍路資料館」というのがあったので、入ってみる。中は意外に立派なもので、遍路の歴史や、過去の遍路にまつわる記念品、掛け軸やお札などがきれいに陳列されてあった。遍路を開いたとされる空海の話、空海を追い求めて遍路をまわった円門三郎の話などのわかりやすい説明文などもあった。ここの館員にお茶とお菓子をお接待してもらい、礼をいってまた先へ進む。



ああ、やはり坂は辛い。道路の脇で一休み、そこでナカダイラさんにもらったおにぎりを食べる。

んーーうまい!うめぼしだけのにぎり飯だが、空腹は最大の調味料、そして愛は最高の調味料である。ありがとうナカダイラさん!一口ずつ味わって食べる。



そしてついにきた。88番札所、大窪寺である。





この寺を見るのをどんなに待ち望んだことか。





なんだかいまいちピンとこない感じだった。「え?もう終わり?」みたいな。

寺の中は、さすが結願所ということで他の寺とは違う雰囲気だった。結願記念のものなのか、おびただしい数のミニ大師像や、杖などが奉納されてあった。またなんの関係があるのかわからないが「原爆の火」なんてのもあった。



本堂でお参りを済ませると、一人のおっちゃんが話しかけてくる。



「あのチャリのおにーちゃんは先にいったよ」



、、、ああ、タツミさんのことか。オレはこのおっちゃんに1回会っているみたいだが、どこであったか憶えてなかった。



「これで結願したわけだな」

「はい」

「これからは一人で自立して生きていかにゃならんな」

「、、、ええ、まあ確かに自信はつきましたね」

「人間、嘘をいったり、かっこつけたりしてはいかんぞ」



、、、おっちゃんの説教が始まるのかな、と思いながら聞いていると、だんだん様子が変わってくる。



「遍路が終わったからといって、気が緩んで、色町なんかいったらあかんぞ

「、、、いやいきませんよ」

なにごとも急いだらだめだ。な、女もじらして、じらしてこそ、スッと、、、(以下略)」

「人間汗水たらして働かにゃならん。そして夜は女とまた汗水たらして、、、(以下略)」

「健康はなによりも大事だ、よく食べて、よく寝て、よく、、、(以下略)」



もう書ききれないが、とにかく猥談の嵐である。いっていることはまともなのだが、例え話が全てエロい。

長い長い道のりを越え、やっとの思いで88番までたどり着いた。なにかすがすがしい気分で最後の本堂のお参りを終えて、最後は猥談でこの遍路旅をしめくくることとなった。

、、、まあこれでいいのかもしれない。なんというか、オレ向きな感じさえする。以前どこであったか憶えていないこのおっさん、実は仙人で、遍路を終えたご褒美にオレに人生の意味を教えてくれたのかもしれないな。亀仙人だったけど。





10番に戻る

88番から徳島へ戻る道はすごい下り坂。天気もよく、車も少なく、ものすごいスピードで飛ばしていった。88番から1番へ戻り、「結願して帰ってきました」という報告をするという人が多いらしいので、オレもそれをすることにする。どっちみち帰り道だし。



道中、公衆電話があったので実家に電話する。結願したから、明日船に乗るよ、ということを簡単に伝える。電話をしている最中、近くをうろうろしているおっさんがいた。電話を切った後、そのおっさんと話す。



「これから11番か?」

「いえ、もう結願したんですよ」

「おお、それはがんばったな。じゃあ10番にいくといい」



10番?普通は1番だろ?確かに10番から9、8、7、、、とお礼参りをするという話は聞いたことがあるが、このおっさんは10番だけ行けばそれでいいという。まあこういう時は、町の人のいう通りにするのが一番である。オレは少々逆戻りをするが、10番に向かうことにした。



10番に向かう途中、思い出す。そう、10番といえば、あの333段の階段があったところじゃないか。うえええなんてところを勧めてくれるんだおっさん。しょうがない。一度見覚えがある道を進み、たどり着く。また333段のふもとに来た。しかし、、、

なんと楽勝である。ちょっと息があがったものの、全然辛くない。一気に駆け上がり、上までたどり着いた。これには感動した。この3週間で、こんなに変わるのか。おっさん、10番を勧めてくれてありがとう。



そして、1番に戻る。もうすでに暗くなり始めていたが、もう気分は楽なものである。遍路も終わったことだし、いざという時はビジネスホテルに泊まってもいい、くらいに考えていた。





旅を始めた時と同じところでもう一枚。





一番の寺、今見ると本当に商売っ気がある寺だなあ。一応お経をあげ、そそくさと徳島市内へ向かう。





鷲の門

これも先ほど10番の寺を勧めてきたおっさんに教えてもらったものだが、徳島市内には大きな公園があって、そこの「鷲の門」というところが屋根もあって野宿に向いているということである。オレは市内で「えびいち」というちょっと高めの飯屋に入り、一人祝杯をあげた後、ほろ酔い気分でその公園へと向かった。



公園では、不思議な光景を見かけた。20を過ぎた男と女の集団が、普段着で踊っているのである。ちょうどそこら辺のベンチに座っていたホームレスっぽいおっさんに声をかけると、



「これは阿波踊りの練習だよ」



という。なるほど、阿波踊りははじめて見た。別に観光に来たわけじゃないから阿波踊りなんて初めから見れると思っていなかったが、これは嬉しい偶然である。しばらくぼーっとその練習を眺めていた。



練習も終わり、人も少なくなってきたので、そろそろ鷲の門にいくことにする。確かに屋根はある。一晩過ごすなら十分だ。オレはホームレスと間違えられないよう、遍路が終わったにも関わらず白衣をチャリにかけて、遍路をアピールする。そして、マットだけ敷いて、寝る。





、、、とここで今日の日記は終わるはずなのだが、お大師さんは最後にご褒美をくれたようだ。



「あんた、遍路かい?」



半分寝ていたオレに向かって、誰か話しかけてくる。



「ここは警察がみまわりにくるよ。もしよかったらうちにこないか?」



みると30くらいのおっさんが隣に座っている。



「、、、ええっ!?いいんですか?」

「いいよ。ってまさか君ホモとかじゃないよね?



、、、接待する方もされる方も同じようなことを考えているんだな。



「いえ、ちがいますよ!」

「うちはすぐそこだから、きなよ。一人暮らしだから、狭くて汚いけど」



やったああ!!ということでこの日はこのおっさんの家に泊めてもらうことにする。この人はウサミさん。徳島内のホテルで、ホテルマンをやっているそうだ。

家はワンルームマンションで、確かにあまり広くはないが、そこに布団をしいてもらう。シャワーを借りた後、Tシャツとジャージまで借りる。本当にありがたい。

ウサミさんは今遠距離恋愛中で、銀行で働いている彼女と付き合っているらしい。そんな恋話などで盛り上がりながら、この日は、次の日を心配することがないので、遅くまで飲みながら話していた。