17日目 ~ストイックな夜~

スタート位置:愛媛・伊予三島市

札所:2ヶ所

66番 雲辺寺

67番 大興寺





最も幸せな朝

朝、目をあけると「なんでオレはここにいるんだ?」という感覚に見舞われた。

東京の家を離れ、四国にきて、そこで知り合った女の子の家に泊まっている。本当に今までの日常と離れた生活をしているんだな、と思った。



物音が聞こえたので、もう家族の人が起きているのがわかった。部屋をでると隣にマコトとお母さんがいた。



「おはよう。ごはんできてるよ。支度終わったらいってね」



しかも昨日干していた洗濯物を持ってきてくれた。全部きれいにたたんである。

くうううう朝から幸せだ!



ご両親は朝早く仕事にいってしまったので、マコトと二人で朝食を食べる。朝のワイドショーなんかみながら、「宇多田ヒカルの結婚相手すごいねー」とか俗っぽいことを話してた。



家を出たのは10時過ぎ、この旅で最も遅い出発時間だ。マコトは途中まで送ってくれるということで、一緒に出る。出発の際、白衣を着ようとすると、すごくきれいになっている。アイロンがかかっているのだ。



「わたしがかけたんだよ」





やばい、もう遍路やめてここに住みたい。





途中まで見送ってくれた。







再び遍路旅

マコトと別れた後、だらけきった顔に再び緊張が走る。いつまでも気を抜いてちゃいけない。でもこの日は走りながらも昨日のくつろぎの時間をぼーっと思い出していた。アホなオレ。



遍路有数の難所と呼ばれる雲辺寺へと向かう。「雲辺」、「雲の辺り」よ、名前からしてやばそうだ。オレは迷わずロープウェイ口へ。

チャリマップにこのロープウェイはチャリを乗せられると書いてあったので、乗せる。こんないい話はない。すっごい高い山だし、きっとダウンヒルはめちゃくちゃ気持ちいいぞ、、、この時はそう思ってた。



ロープウェイを降りると、2人の遍路がいた。二人とも頭にタオルを巻いていて、何かを編んでいる。





いかにも旅人っぽい人たちだった。





聞くと、二人とも逆打ちをしているらしい。逆打ちの遍路には初めて会った。しかも片方の30くらいの男、マンダさんは初の遍路らしい。まじかよ、初めてで逆打ちかよ。

オレは知り合ったのも何かの縁、ということでマコトからもらったお菓子をおすそ分けした。すると彼らはお礼に、といってヘンプで編んだブレスレットをくれた。もちろんこの道中で編んだものだ。かなり嬉しい。オレはさっそくそれを手首につけて、札を渡した。



2人から「雲辺寺の展望台がいいよ」と聞いたので、そこへ向かうことにする。入館200円とあったが、入り口のお坊さんに

「あのー、これお金いるんですか?」と聞くと

「いいよ」

と無愛想な返事。でもラッキー。遍路はタダなのかな?



円柱の塔をぐるぐると上に登っていく。そしてドアをあけると、、、

すごい。遠くに愛媛と香川の海岸線が見える。山の頂上だから気温も低く、快適だった。オレはそこがいたく気に入り、マコトのくれた弁当を食べた後、2時間くらいぼーっとしたり、手紙書いたりしてた。



展望台からおりて、本堂の方へお参りしに向かうと、さっきの2人組がいた。せっかく知り合ったから今日は一緒に下山して山のふもとで飲もうといわれ、かなり迷った。しかし東京に帰る日がほぼ決まっていてあまりのんびりできないため、泣く泣く断った。彼らは逆打ちだからもう会うことはないだろうに、、、もっとスケジュールに余裕をもって遍路にくればよかった。



さて、お楽しみの雲辺寺ダウンヒルである。「ワイルド」「走りにくい」とは聞いていたが、「オレもチャリ初心者はもう卒業しているレベル、テクでカバーよ」などどなめていた。猛スピードで駆け下りる。うおおおーいいぞおおおお!!!確かに道は悪く、パンクの心配もしたが、かなり楽しかった。ところが。



あるカーブにさしかかった時、砂利の上を走った。急なカーブだったためブレーキをかけるとタイヤが滑り、思い切り転倒した。チャリは倒れ、オレはカーブの内側にゴロゴロと転がった。思い切り背中を打ったが、バッグがクッションとなり、幸い頭と体に怪我はなかった。しかし膝と肘にエグいすり傷が、、、



あまりに突然な出来事で一瞬ぼう然としてしまった。しかしすぐに手当てをしようと起き上がる。体の内部に痛みが走る。外傷は大したことないが、骨に響いたようだ。とりあえず患部を洗おうかと思ったが、チャリに積んであるペットボトルは空だった。雲辺寺で水を補給しなかったことを悔やみ、仕方がないので消毒液を直接ぶっかけてバンドエイドとティッシュで覆った。



ああ、砂利の上で急ブレーキかけたら滑るの当たり前じゃん、、、まだまだ初心者マークはとれません。



それからのダウンヒルはつまらんものよ。「また転ぶんじゃないか」とびくびくしながらソロソロ降りる。まあ体にかなり痛みがあったし、無理はできないが。



それにしてもアホなことをした。お大師さん、これも修行ですか?

女の事でうつつを抜かしていた戒めですか?

辛いからといってロープウェイで登った罰ですか?

この後、風呂で湯船につかる度にヒーヒーいう羽目になる。





ストイック遍路

次の寺、67番に着く頃にはすでに暗くなっていた。寺の雰囲気はなかなか良かった。木々がうっそうとしてて、商売っ気全然ないし。寺を訪れる一番いい時間はやっぱり早朝と夕方だね。





この寺は好きだった。





本堂でお参りを終えると、大師堂の方でひざまづき、熱心にお経をあげている人がいた。見ると、まだ若い。オレより2、3歳上くらいだろうか。



声をかける。彼はマツシマさん、歩き遍路だそうだ。今日の寝床はどうするのか、と聞くと、近くにお堂があるからそこにする、ということである。オレは半ば強引にご一緒させてもらうことにした。



マツシマさんは学生を終え、今はフリーターらしい。しかし遊んでいるような感じはあまりない。あまり表情を変えず、顔はヒゲボーボー。そらない主義らしいが、不潔な印象は受けない。

彼は、なるべく金をかけずに、しかも楽をしないように旅をするのが目的らしい。お堂を見つけ、その後一緒に夕飯の買出しにいったが、安いものに対するこだわりはすごかった。なんにも考えずに欲しいものをカゴにいれていた自分が少し恥ずかしくなった。



しかし彼曰く、



「結局オレも安全な立場にいるし」



いくら貧乏旅をしていようと、本当に困ったら郵貯でおろせる。その心の余裕がある限り、いわゆる「本物」ではないという。もちろん本物とか、偽物とかはないし、なにが良い、悪いはないんだけど、そういうよりストイックな生活に憧れる気持ちはある。オレもいつだったか「毎日旅館や民宿に泊まってて、時々親が様子を見に来るという若い男の遍路」の話を聞いた時、ちょっとな、とか思ったし。



「遍路はみな平等」。マツシマさんが以前会った遍路の言葉だ。この人は雑誌に取材され、その記事のコピーをマツシマさんが持っていて、読んだ。この言葉を知って、少し安心した。けど、自分はやはりアマアマちゃんなんだな、ということも痛感した。



この日、オレはにわかストイックになり、パンとカップラーメンのみを食った。ちなみにカップラーメンは水で作った。マツシマさんが

「そこのコンビニでお湯もらえるんじゃ、、、?」といっても



「いや、水で食べます」



とてもストイック遍路っぽい
(本当は興味心からなんだけど)。横峰寺で会った遍路から教えてもらったこの「水ラーメン」の技、さてお味の方は、、、お、なかなかいける。むしろ、夏場はこれでよいかも。



マツシマさんはクールガイっぽくみえるが、実は甘いものが大好きらしい。スーパーのパン屋で「パンの耳ありますか?」などどあれだけ節約しておきながら「かりんとう」は買ってたし、「今日は食べよう」といって近くのコンビニでアイスを買っていた。マコトが



「普段あまり笑わない人が笑うと嬉しい」



なんてこといっていたのを思い出したが、こんな人はモテそうだな。





お堂の中はなかなか快適。板の上にマットを敷いて、寝る。